黒を以て白を制す

 「なんであたし達が折れなきゃいけないの!ムカつく…っ!」

 「調子乗ってんなよ!」

 「そうだ。マウント取りまっしょいってあたし達のネタじゃん!パクるなよ!」

 「許せん!」


 我に返ったのか悪口シスターズが飲んでたジュースの缶を床に叩き付け、私を睨み付ける。やっぱりダメっぽい。


 そりゃそうか。簡単に行けばここまで苦労してない。ムカついた出来事を全て水に流せと言ったって、はいそうですか、とはいかない。人は人を簡単に許せない。許さなきゃ自分がしんどいから許すのだ。


 相手のためと言うより自分のため。自分の心を軽くするために(おこな)った結果が相手の心を軽くする。逆に言えば、他人がどれだけ言おうと本人が納得するまでは許せないし許されない。たとえ、責める事はなくなったって心の奥底ではずっと怒ったまま。


 消化出来ずにモヤモヤだけが残る。燻った思いが残り火のように、消火しきれずにモヤモヤと。放ってたらそのうちまた燃え盛る。


 「怒るところ、そこかい」


 冷静にツッコミを入れつつ、転がった缶をゴミ箱に捨てようと屈む。あーあー、缶が凹んで。余程、腹が立ったのね。上手くいかないな……と思っていたら今城さんがドアの向こうからひょっこり現れた。


 「まぁ…、桑子さんったらゴミなんか拾わされて可哀想」

 「あ、今城さん……」

 「意地の悪い方たちね。人に拾わせていらっしゃらないで、ご自分で片付けたらどう?恥ずかしいわよ」


 虫けらを見るような目で今城さんに言われ、悪口シスターズは「えー」と言いつつ、渋々と自分で缶を拾いゴミ箱に捨てる。


 普段は強気な彼女たちも今城さんの気の強さを萌から聞いてるのか、簡単に手出し出来ないでいるようだ。あんだけ怒ってたのに何も言わずに黙ってる。顔は唸ってるドーベルマンのように狂暴だけど。


 「やーね。そんな怖い顔をなさらないで。皆さんでお茶でもしましょうよ」

 「え、お茶?」

 「はい。桑子さんから頂いたクッキーもありますし。休憩時間も残り僅か、平和に行きましょう」

 「う、うん」


 そう言って、今城さんは人数分の紅茶の用意をささっと済ませ、私があげたクッキーの箱をテーブルの上に広げた。昨日大量に焼いて持ってきたやつだ。今朝要るか聞いたら全部欲しいと目を輝かせてルンルンで持っていったやつ。


 プレーン、チョコ、ナッツ、アーモンド、バニラ、ココア、ドライフルーツと色んな味のクッキーが大量にある。


 1度作って今城さんにあげたら大絶賛で、ついつい調子に乗って作りすぎてしまった。さすがにこれは多いかもと思ったが、どの味が1番喜ぶか分からなくて、とりあえず全部持ってきた。今城さんは大喜びだったから結果オーライなのかも知れないけど。

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