黒を以て白を制す
「あー、安久谷が作ったクッキーか」
「これ、甘さがちょうど良くて美味しいのよね」
「あたし、これ好きだわ」
「とは言え、食べ物で釣られるって私たちもチョロイわね」
「まぁ、なんだかんだ言ってあたしら女子だし」
「一時休戦ってことでいいんじゃない?」
ぶつぶつ言いながらも悪口シスターズはクッキーを手に取り、今城さんにありがとうと言って食べ出した。今城さんが用意した紅茶を飲んで、何だか物凄く和やかな空気が流れてる。
本当のお嬢様のティータイムだ。今城さんは機嫌が良さそうにニコニコ笑ってるし、悪口シスターズも怒りが飛んでいったのか華やかに騒いでる。果たしていいのか?これで。いや、いいか。平和ならそれで。
「あれ?皆、集まってどうしたの?」
優雅なティータイムを楽しんでいたら、伊那君がキラキラのほほん癒し系スマイルで休憩室に入ってきた。今日もビシッとスーツを着こなしてて爽やかさ1000%だ。社長に鬼のように仕事を放り込まれて悪戦苦闘しているはずなのに、そんな風には見えない。疲れなんてまるで見せずに輝いてる。
「伊那君~!」
「伊那君も一緒にお茶しよ〜」
突然の伊那君の登場に悪口シスターズも甲高い声ではしゃぎ出す。いいなー。私も腕に纏わり付いてキャッキャッと騒ぎたい。公私混同しないようにと会社では我慢してるけど、内心は溢れる思いでいっぱいだ。好きだなー、話したいなー、早く帰りたいなー、と思ってしまう。
休憩中とはいえ、仕事中にこんなことを考えるのもなんだけど……。帰りたい。今すぐ。帰って伊那君の胸にダイブしたい。恥ずかしくてそんなの出来ないけど。
「あら伊那さん、桑子さんから頂いたクッキー、伊那さんも食べます?」
「あ、欲しい。ありがとう」
「美味しいわよね、これ。思わず笑顔になっちゃうわ」
「なるね。って言っても俺はいつも桑子に笑顔にさせられてばっかだけど」
「やーね。ノロケちゃって。倍にして返しますわよ」
「ははっ、今城さんには勝てそうにないわ」
穏やかに笑いながら伊那君はイスに座って今城さんから貰ったクッキーを口に運ぶ。
ちょっとビックリ。いつも笑顔にしてるって私が伊那君を?逆じゃないだろうか……、と紅茶を飲みながら1人考える。
伊那君の幸せ度数は分からないけど、私は伊那君と居るといつも楽しくて幸せだ。笑いが絶えない。それに伊那君は私が闇に飲み込まれそうになる度に、あっさりと不安を打ち消してくれる。
気持ちに気付いて言ってくれるというより、何気なく日常的に言った言葉や態度とかで。あぁ、本当に好きで居てくれてるんだなー。と安心する。
あんなに不安と疑問ばかりだった過去が嘘みたい。ただただ好きって気持ちだけで突っ走れる。転げ落ちる不安もなく心配もなく、がむしゃらに。伊那君の手を掴んで真っ直ぐに。
フラグ立てのおっちゃん達すら旗を振って応援してくれてる感じ。頑張れ、桑子!頑張れ、桑子!負けんじゃねぇぞ、って隣で走りながら。