黒を以て白を制す
「そう言えば、伊那さんは桑子さんのどの辺りが好きになって付き合ったの?」
「素直なところかな。あと、好みも合うし。気が合う」
「タイミングがバッチリ合うんでしたっけ?」
「そうそう。そんな人、滅多に居ないしね」
「確かに。桑子さんにしか出来ないことよね」
「だね。桑子と居ると楽しいし、話しているうちに仕事の疲れまでふっ飛ぶ」
笑顔で話す今城さんと伊那君。何だか無性に照れる。そんな風に思ってくれてたんだって。この場面だけ切り取って心のアルバムに貼り付けたい。しっかりと忘れないように。
「なるほど。でしたら、隣に立つのに相応しいとか相応しくないとか関係ありませんわね」
「ないよ。桑子がいい」
「ですって。良かったわね。桑子さん」
1人モジモジと照れていた私に今城さんが笑顔を弾けさせる。可愛い。でも、物凄く悪い顔だ。私に“性格の悪い女になれ”と言ったときとよく似た顔。なんでそんな顔をしてるの?と疑問を感じる。
すると、答えを告げるように伊那君が手に持っていたお茶のペットボトルをテーブルに置き、悪口シスターズの方に顔を向けた。極上の爽やかスマイルを浮かべて。
「皆、ありがとね。桑子と仲直りしてくれて」
「え?」
「仲良くなったんじゃないの?一緒にお茶してたし」
「あ、あぁ…。まぁ、そうね……」
「本当に良かった。安心した。心配してたから」
半分押し切る勢いで言った伊那君に悪口シスターズは苦笑いを浮かべながら頷く。思ってもみなかった台詞に皆が皆、冷や汗だ。
まさか言えまい。さっきまで熱烈なバトルを繰り広げていただなんて、この笑顔の前では。私も言えない。笑顔が崩れ落ちそうで。
「ん?何?それともまさか、また喧嘩をしてた?」
「いやいや、そんな、まっさかー」
「仲良くしまくってたわよね」
「そうそう。あたし達、仲が良いわよね。安久谷さん」
「はい、とても」
言うな、絶対言うな!頼むぜ~頼むぜ~!一時休戦すんぞ!って顔で見られ、苦笑を浮かべつつ話を合わせる。
仲良くしているとしか言えない雰囲気。むしろ、そうとしか言わさない勢い。伊那君は純粋に笑っているが、今城さんの笑顔には何だか裏があるように見える。してやったりと思っていそう。
むしろ、絶対に思っているに違いない。今、肯定するようにウィンクをした。
「これからも仲良くしてあげてね」
「もっちろーん」
伊那君に微笑まれ、悪口シスターズは声を裏返させながら頷いた。唇をひくつかせながら、ざっとらしく口の端を上げている。
多分、また明日からは普通にバトルが始まるんだろう。性懲りもなく。でも、いいや。今は休戦で。平和に終わって何よりだ。
そう思いながら皆とクッキーに手をつける。キレて始まり、作り笑顔で終わる、ある意味一歩前進した午後のひとときであった。