黒を以て白を制す
ついに萌がブチギレる
「安久谷さん!伊那さんに何か言ったでしょう!」
ついに悲劇のヒロイン、川合萌が鬼のような形相で私の前に立ちはだかる。
伊那君と付き合い始めてから3ヶ月。性格の悪い女の振りを始めたお陰で私の悪役ライフは順風満帆だ。皆が皆、普段の私と性格が悪いバージョンの私を比べるようになり『安久谷って意外と悪いヤツじゃないじゃん』って流れになってきている。
それに便乗して今城さんが“今までの私の暴れっぷりは態とだった”とネタバラシをしたから余計にだ。皆、怒るかなと思ったけど、そんなこともなく『あぁ、だからか』と納得した様子だった。
あれだけ私を悪役に仕立て上げてた悪口シスターズも徐々に大人しくなり、仕事終わりに皆で和やかに休憩室でお菓子を食べてた今。萌が中に入って来て、いきなり怒りだした。
こちらから仕掛けるまでもなく向こうから。ラスボス萌の登場。安久谷桑子、25歳。ノリにのった悪役ライフもそろそろ終盤です。
「何か言ったって何を?」
「私と仲良くするなとか、口を利くなとか。嫉妬に駆られて言ったんでしょう!」
「はい?私が?意味が分からんわ」
何を言ってるの?この子は……と呆れつつ、ギャンギャンと『性悪女』だの『意地悪ばっかするな』だの犬みたいに吠えられながら、事の詳細を萌から聞き出す。
まぁ、その話を簡単に説明すると、分からないことがあって伊那君に聞きにいったら『他の人に聞いて欲しい』と素っ気なく返されたらしい。
それでも諦めずに聞きまくっていたら終いには仕事の邪魔だと追い払われたんだとか。それも普段の伊那君なら絶対にしない、微妙な反応、冷たい態度、疲れた顔で。それで私が伊那君に何か言った所為だろうって考えに至ったわけだ。