黒を以て白を制す

 「バカじゃないの?」


 話を聞き終わった瞬間、思わず本音が口からポロッと漏れた。だって本当にバカだ。何をどう思ったのか知らないが、仲良くするなとか喋るなとか、そんなのイチイチ言うまい。


 仕事は仕事だぞ。そりゃベタベタされるのは嫌だけど、業務に関係がある話なら割り切って我慢するわ。仕事の邪魔にならないように、やりやすく仕事が出来るように、一応私なりに気を使ってる。


 伊那君は誰よりも仕事熱心だし、それを私が邪魔するのは嫌だと思うから。それを萌ときたら思い込みの激しい。飽くまでも私が余計なことを言った所為にしたいみたいだ。嫌がらせをされたとギャーギャー喚いて止まらない。


 するか、そんなの。そもそも人の男にちょっかいを掛けてやろうって魂胆があるから、そんな斜め上な勘違いが生まれるんじゃないだろうか。じゃなきゃ忙しいのかな?とか機嫌が悪いのかな?って考えにまずは行きつくでしょうが。


 「忙しかったんじゃないの?」

 「それでも伊那さんはいつも私に優しくしてくれますし!」

 「忙しくしてるところに纏わりついて“教えて教えて”って子供みたいに腕に絡みついたんでしょう」

 「だから何です⁉それでも伊那さんは優しいのに!」


 おいおい、本気で纏わりついてたのか……と呆れ果てる。そりゃ邪魔扱いもされるわ。ただでさえ、伊那君は任されている仕事の量が多い。他の人の数倍はあるんだから。


 ここ2週間ばかし毎日のように接待が続いてたから疲れだって相当溜まってるはず。普段は優しい伊那君だって人間だもの。しつこく纏わりつかれたらイライラするのも無理はない。


 朝から疲れた顔をしてたし、機嫌が悪くても少しくらい分かってあげてよと思う。私だってお陰で平日は会社以外で会えず。土日も友達の結婚式やら法事やらで顔を合わす暇もなかったんだから。

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