黒を以て白を制す
「とにかく直ぐに伊那さんに言った発言を撤回してください」
「撤回しろと言われたって何も言ってないし」
「言ったに決まってます」
「言ってないって」
否定しても繰り返し言い続ける萌にうんざりしながら言い返す。ツンっと澄まして上から見下ろして黙って言うことを聞けって顔をしている。その顔を見ていると腹が立ってどうしようもなくなった。ここで負けたら、また悪役に落とされると。
「言えって言ってるでしょう!」
「煩いな!あんたの望み通り悪役にばっかなって居られるか!」
「はぁ!?」
「何でもかんでも人の所為にして。いい加減、愛想も尽きたわ」
「なっ、何よ、それ。散々、優しくしてやったのに恩を仇で返して許せない……!」
「はい?」
「うざ。今までと同じように接して貰えると思うなよ‼」
萌が悔しそうに顔を歪めて叫ぶ。怖っ。般若みたい。まるで過去に揉めに揉めた金太郎にソックリだったCちゃんみたいだ。
そのCちゃんとはとの昔に縁が切れたけど、彼女こそ私の性格を歪めた女であり、悪役ライフの始まりの女、そして悪役になりきるために参考にさせてもらった女でもある。
萌が言った言葉ってCちゃんが私に放ったのと同じ台詞だ。私がCちゃんの悪口を言っただの言ってないだので揉めに揉めて、結局私が悪役にされたときに言われた言葉。
彼女には色々言われたが、言われてきた中でそれが1番痺れた。言われた瞬間に“凄い。漫画みたいな台詞を吐くやつが本当にこの世に居たのね”と感心した。それと同時に“勘違いも甚だしい”と反逆心も芽生えた。
だって仲良くもなかったし、親切にしてもらったこともなかったし、どちらかと言うと最初から敵意バリバリだったから。あれ?もしかして『今までごめんね、これからは接し方変えるね、仲良くしようね』って意味?とさえ思ったくらいだ。
今、思い出しても腹が立つし、モヤモヤする。金太郎を見ると若干イラッとするくらい。その女と同じことを萌が言うなんて何の因果か。それともタイプが似てるのか。
そう言えばCちゃんも思い込みが激しかった。桑子が悪口を言ってたとCちゃんに嘘を吹き込んだ子分たちの言うことを直向きに信じてた。
『ボス猿ならぬボスゴリラ』だの『化粧をしたブルドッグ』だの『顔も髪型も体型も金太郎にそっくり』だの。散々酷いことを言っていたのは私じゃなく、いつも周りに居た子分たちだったのに。
ちなみに嘘を吐かれた理由は彼女たちがCちゃんのことをブル金ゴリラと陰で笑っていたのを私が咎めたから。要は恨みを買った。そして散々嫌がらせをされて今に至る。
親切心や正義感は時として凶器にもなり得ると知った出来事である。