黒を以て白を制す
「あ、そうだ。これあげる」
助けて貰ったお礼と言うわけでもないが、鞄からチョコレートを取り出して伊那君に渡す。
専門店で売っているお洒落なチョコじゃなく、出勤前にコンビニで買った普通のチョコだ。でも、アーモンドが入っていて結構美味しい。最近ハマってる。
「え、」
しかし、伊那君は私からチョコを受け取った瞬間、凄く驚いた顔をした。こっちまで驚くくらい。パッケージを見たまま固まっている。
あれ?このチョコ嫌いだった?アレルギーがあったり?
想像していたのとは違う反応が返ってきて背中にヒヤリと冷や汗が流れる。
でも、確か前に同じチョコを食べてたよね?しかも割りと好きぽかった気がする。美味しいって言ってたし。私にもくれたもん。
「……なんかダメだった?」
「いや、逆。チョコレートが食べたいって言おうとしたら出て来たからビックリした」
「なんだ。食べたかったなら良かったじゃない」
「そうなんだけど……。安久谷さんって、いっつも俺が欲しいと思ったタイミングでくれるからさ」
「え、そう?」
「うん。お茶とかお菓子とか俺が欲しいと思ったやつ。なんでかな?と思って」
そう言って伊那君はマジマジと不思議そうな顔でチョコを見続ける。