松之木学園♥生徒会執行部
『澤田きゅん』
「はぁー。本当に大丈夫かな。私みたいなヘタレが説得係で……」
今は使われていない古びた第二校舎の前。ガタつく扉を開きながら不安な気持ちを拭うように独り言を呟く。物の見事にハズレくじを引いた次の日の朝。説得係に任命された私は澤田君に会うべく、彼のさぼりスポットである第二校舎の図書室に向かった。
情報通の用務員のオジサマから聞いた話によると、澤田君は親と仲が悪くて家にいるのがあまり好きじゃないらしい。だから学校じたいには意外と朝早くから来ている。今日も既に登校済みだと門の前に立っていた警備員のオジサマが教えてくれた。澤田君がいるなら、きっと誰も来ない“ココ”だろうって。
確かにココなら誰にも見つからない。隠れ家としては悪くないと思う。しかし、長年手入れされていない第二校舎は所々、床板が痛んでいて埃っぽい。薄暗いし、静かすぎるし、寒いし、廊下から見えるトイレなんて、まるでホラー映画のセットそのもの。今にも人間以外の何かが飛び出してきそう。
嫌だわー。できることなら今すぐ任務をほっぽり出して外に出たい。しかし、ここへ来る前に向けられた皆の期待に満ち溢れた顔を思い出すと帰りづらい。特に校長にとって今の私は、思い詰めていたところにひょっこり現れた唯一の希望の光なのだと思うし。
「……ここか」
階段を上り、廊下を歩いて一番奥。二階の端っこに噂の図書室はあった。入口には鍵が掛かっておらず、開くとスルスルと滑りよく開いた。
中に入ってすぐ目に飛び込んできたのは、中身が空っぽの本棚とボロボロのカーテン。ぐるりと中を見渡せば横倒しになった古い本と空き缶とお菓子の箱。図書室独特の匂いと埃臭さが混ざって何とも形容しづらい匂いが鼻につく。
廃墟感が凄い。しかし、薄暗かった廊下とは違い、図書室の中は意外と明るかった。差し込んだ光の中に小さい埃が舞ってキラキラと輝いている。ポカポカしているし、お昼寝をしたら気持ち良さそう。まぁ、まずは掃除をしなきゃだけど。そう思いながら窓の方に足を進める。