松之木学園♥生徒会執行部
『生徒会室』
「やぁ、来てくれて嬉しいよ。澤田君」
次の日。慣れ親しんだ生徒会室の長机の前。余所行きの顔を浮かべた理央が、生徒会室にやって来た澤田君に愛想笑いを向ける。組んだ指の上に顎を乗せて穏やかに、まるで孫を見守るお爺さんのようだ。出迎えられた澤田君も悪い気はしないらしく、顔に緩い笑みを描いている。
「良かったら、そこのイスに座って」
「そうですよ。僕たちはこちらで作業をするので。遠慮なく」
鈴花と雄大の眼鏡コンビも、優しく笑って澤田君にイスへ座るように勧める。小春もいそいそとお茶の用意なんか始めてご機嫌だ。私も私で胡散臭いくらい機嫌良くニッコリと微笑んだ。全部が全部、打ち合わせ通り。しかし。
「あ、澤田君だ~。やほー」
「颯……」
「ここに居るってことは生徒会のメンバーに入ってくれる気になったんだね~」
「あ、おい」
「良かった。これで校長との約束も達成出来るね」
颯が生徒会室に入ってきた途端、空気が変わった。理央が溜息を吐き、鈴花の動きが止まり、雄大の眼鏡がズレ、小春の顔が強張る。私の時も止まってしまった。春から冬。快晴から嵐。さっきまで穏やかだった澤田君の表情がみるみる険しいものに変わっていく。
「何だよ、校長との約束って……」
「えー?澤田君が生徒会に入ったら恋愛禁止の校則を廃止にするって約束だけど?」
「はぁ?それが理由で俺をココへ呼び出したのか?」
「だってそうして欲しいって校長が涙ながらに頼むんだもん」
「ほー。校長がなぁ……」
凍り付いた部屋の雰囲気を見ることなく、颯は澤田君に余計なことをバンバン言う。反逆心の塊で人の言う通りに動くのが大嫌いな澤田君に向かって裏事情をペラペラと。澤田君の顔がますます鬼神のように歪んでいく。
あぁ……。澤田君の神経を逆撫でするようなことばかり言っちゃって。せっかくココまで連れて来たのにまた振り出しだ。勉強を教えて貰いつつ、じわじわと仲良くなって、いつの間にか生徒会入りして貰う予定が全てパー。無邪気な悪魔によって早くも計画がぶち壊されてしまった。
メンバー入りの話は仲良くなるまで待とうって言ったじゃない。おまけに校長先生の話まで出しちゃって。『わかったぁ~』なんて元気のいい返事をしておいて、全く話を聞いてなかったなー、この悪魔。
「あちゃー」
一足遅れて生徒会室に入ってきた慶彦も頬を掻いて苦笑い。見兼ねた小春が人差し指を唇に当てて『言っちゃダメ』と必死にジェスチャーを送っているが颯は全く気づかない。