松之木学園♥生徒会執行部
「おやおや。ココに来た本来の目的を忘れていないかね、澤田君」
「忘れてねぇ。お前のテストの珍回答を見る、だろ」
「それもだけど!マジックの種明かしを知るのも重要なことだから!」
出来れば勉強なんかしたくない。それが私、松戸菜々の本音だ。だからこそ食い気味に澤田君に言った。そう。これは澤田君が知りたがっていたマジック。面倒くさがりで反逆心の強い澤田君が、ついつい出会ったばかりの女の願いを聞き入れてしまうくらい、タネや仕掛けを知りたがっていたマジックだ。
ポケットからそっとスマホを取り出した彼の様子を見るからに、興味を引き付けたのは言うまでもない。何ならこのままマジックに夢中になって勉強のことは全て忘れてくれればいいのにと思う。
「そこも覚えてるって、ちゃんと」
「そうですか」
「しかし、すげー。本当に出せるのな」
「ふふん。鳩のピーコです。可愛いでしょう」
「あぁ」
「可愛いでしょう!」
「可愛いよ!」
語尾を荒げて『可愛いと言え』と圧力をかける私に澤田君は素直に従った。絶世の塩顔美男子から容姿を褒められたピーコは嬉しそうに首を伸ばして澄んだ瞳を輝かせる。澤田君の方だって、ピロリンなんて音を立てて写真を撮っているんだから既にピーコの虜。よし。このネタは使える。
「いいですか、澤田君。このマジックで重要なのは、まず鳩と仲良くなることです」
「ふーん。鳩とな……」
「仲良くなるには毎日、愛情を込めて話し掛けながら餌をあげることが大事なんですよ」
「へぇー。話しながら餌をかぁ」
「そう。後は言わなくても分かりますね?」
くいっと眼鏡をずり上げて大真面目な顔で澤田君にもっともらしいことを言う。そんな私にピーコが同調するようにクルックーと鳴く。さすがピーコ。空気を読むのが上手い。
「だから毎日ココへ来いってか」
「そうです。そのついでに私へ勉強も教えて貰えれば」
「だったら(仮)メンバーってことにする?」
「お試しで生徒会に入るってことか?」
「うん。それなら生徒会室にも入れるし、ありだよね?」
説得にかかる私の横から理央が書類を差し出し澤田君にふんわりと笑い掛ける。「はい」と澤田君にペンを渡して「ここに名前を書いてね」と軽い感じに言っているけど、それを書いたら最後。生徒会のメンバーとして正式に採用され、任期を終えるまで辞められない。
(仮)なんて口だけ。言ってみれば気持ちが追いつくまで待っていてあげるの(仮)だ。どうにかこうにか丸め込んで強制労働をさせる気、満々なはず。
ほんと優しい顔をして中身は鬼畜だ。それにしても散々反対していたわりには皆、メンバーとして入って貰おうと必死になっているんだから、あの校長もなかなか見る目がある。引き受けたからには全力で、それが我ら松之木生徒会執行部メンバーの長所なのかも知れない。