松之木学園♥生徒会執行部
『やる気はありません!』
「おい、菜々。いつまで俺を待たせてんだ」
土日を挟んで月曜日。授業が終わって帰宅する生徒で溢れ返る教室の隅っこ。澤田君が私の姿を見つけて不機嫌そうにつかつかと歩いてくる。
待たしたと言ってもせいぜい5分程度のはず。しかし、澤田君はえらくご立腹だ。もしかして俺様は待たされるのが嫌いなのか……?と疑問が浮かび上がる中、がっつりと腕を掴まれる。
別のクラスの、しかも大勢の生徒の前だというのに教室の中まで入ってきて大胆な。戸惑って思わず「ひぃっ」と声を上げてしまったことは許して頂きたい。
「菜々ちゃん……!」
「あ、ごめん。平気、平気」
クラスメートがギョッとした顔で心配してきたが、片手を上げて宥める。それでも不安そうにされてしまった。だが、ビビられている側の澤田君は平然とした顔だ。
この男、自分が注目度1000パーセントの学校1目立つヤンキーだって自覚がまるでない。もれなくクラスメート全員の視線を独占しているのにだ。
当たり前のように私を教室から連れて行こうとなんかして。ごく普通の一生徒として振舞っても周りからすれば違和感がありありなんですよ。
「先生、呼ぼうかっ⁉」
「いや、呼ばなくていいから」
「でもっ!」
「大丈夫、大丈夫」
今にも職員室に走り出しそうなクラスメートに手を振り、澤田君と生徒会室に向かう。周りの生徒が何事かとジロジロ見てきたけど、そこはもう華麗にスルーだ。
「ちゃんと授業に出たんですか?」
「まぁな」
「1時間目から6時間目まで?」
「出たよ。ホームルームはサボったけど」
「あぁ、それで早かったんですね」
生徒会室に向かって歩きながら廊下で澤田君と話す。
なるほど。だから待ち時間が長く感じたのか。納得。それにしてもこのヤンキー、頼んだ通り授業にはちゃんと出てくれたらしい。
つい数日前まで皆勤賞を取る勢いでサボっていたくせに律儀な。見た目とは違って意外と真面目なのかな?なんてったって全教科95点以上を取るような頭脳を持っているほどだし。
「お前はちゃんと真面目に授業を受けたんだろうな?」
「当たり前じゃないですか」
「本当か?授業で使ったノートを出してみろ」
疑うように言われて内心ドキリ。躊躇しながらもおずおずと鞄からノートを取り出す。
開いたノートにはびっしりと書かれた丁寧な文字……ではなく、ピーコの愛らしいイラストが描かれている。ウインクピーコ、飛びピーコ、お昼寝ピーコ、我ながら良い出来だ。模写とまではいかないが、上手く特徴を捉えて描かれている。
「どうです?上手いでしょう?」
「アホか!」
得意げに微笑んだ私に澤田君は勢い良くビシッとツッコミを入れてきた。廊下の壁にノートを叩きつけて心の底から呆れたような表情だ。疲れたとでも言いたげに溜め息まで吐かれて思わず苦笑い。
うん。私が悪いのは分かってるよ。でも、勉強は嫌いなんだもん。