松之木学園♥生徒会執行部
「楽しそうだねぇ」
「だろん」
「いつの間にそんな仲良くなったの?」
淑女も秒で口説き落とすモテ御曹司、広報の慶彦がキラキラオーラを放ちながら興味津々な顔で私達を見つめる。
机に置いた腕の下には慶彦が作成した今月の生徒会新聞。内容はごく普通の物で部活についての紹介が書いてある。
「勘違いすんな。仲良くはない」
「えぇっ?自分達マブダチじゃないんスか?」
「いったいドコをどう見たらそうなるんだ?」
「だってほら、息がピッタリじゃないッスか」
「そう思っているのはお前だけだ」
友情ごっこをする私を鼻で笑い、澤田君は照れくさそうに頬杖をついてそっぽを向く。ははーん。さてはツンデレか。可愛いやつめ。
「仲が良くて何よりだよ」
「だね。勉強もちゃんと教えてくれているみたいだし」
「これで菜々さんが留年をする心配も無くなりますね」
理央と鈴花と雄大が私達の隣でのんびりと紅茶を啜りながら、にこやかに笑う。
あ、そっか。と思い出して視線を下に向ければ、机に置かれたノートが寂しげにこちらを見ていた。早く続きを書いてよ、と言っているみたいに。
そうだった。今は澤田君に理科の勉強を教えて貰っている最中だった。すっかり忘れてた。
「ごめん。澤田君」
「もういい。帰る」
「まぁまぁまぁ。ほら、ここの答え。全ての物質は魂から出来ている、で正解でしょ?」
「アホか。原子だろ」
「え……。源氏?誰それ?」
目を細めて真剣に問うた私に澤田君は「面倒くせー」と言って溜め息を吐いた。白けた顔を向けられて思わず首を傾げてしまう。
そんな私の反応は傍から見ても滑稽だったんだろう。いつもは無口な千春ちゃんが「ごめん、おかし……っ」と謝りながらクスクスと笑い始めた。真剣に聞いたんだけどなー。おかしな質問をしてしまったらしい。
「それでもめげずに教える姿勢を崩さない澤田君に好感を抱くね」
「そりゃどうも」
「授業にも出るようになったんだって?先生達がさっき職員室で大燥ぎしてたよ」
慶彦が生徒会新聞の最終チェックをしながらニッと白い歯を見せて笑う。
そっか。先生たちが……。きっと我が校きっての天才がやる気を出したと思って喜んでいるんだろう。澤田君と同じクラスの子がしていた噂話曰く、今日の先生達は感慨深い表情で宙を見つめ、目に涙を浮かべていたそうだから。
そこまで人の感情を動かせるなんて恐るべし、澤田君。しかし、澤田君はあまり嬉しくないみたいだ。
「別に。いつまで授業に出るか分かんねぇし」
不貞腐れた顔でそう呟くと、そこから永遠と黙り込んでしまった。