松之木学園♥生徒会執行部
『少女漫画目線』
「澤田にボコられた」
ツンキーとの件があって数日が経った頃。澤田君からあしらわれまくったツンキーは、悔しかったのか事実を捻じ曲げた噂を流し始めた。
ツンキー目線で言うとあれから何度か襲撃をしたものの澤田君は全くと言っていいほど相手にしてくれず、喧嘩を売っても鼻で笑われて終わり、殴りかかっても軽く躱され、私をダシにしようと目論むも捕まらない。
このままじゃ彼が言う正々堂々とした喧嘩は出来ず、いつまでも一発で沈められて負けた自分のまま。
それが余程恥ずかしかったのだろう。だったら物理的に視界から消してやれと言わんばかりに『何もしてないのにいきなり澤田から殴られた』と他生徒を捉まえては熱心に言い回っている。
私にブチギレた結果そうなったのに、そこは隠して。
そもそも殴ったんじゃなくて払い除けただけなのだが【澤田君の更生】を目標に動いている私たちにとっては少々厄介だ。
ただでさえバチクソヤンキーな澤田君は悪いように思われやすいし、殴られたなんて噂が蔓延っていたら更なる勘違いも生まれやすい。
保護者から問い合わせが来た日には悲惨。無視も出来ないし、切り捨てたくもないし、板挟み。校長も教員も職員室の中で耳を塞ぎヒヤヒヤしながら頭を抱えている。
ここまではツンキーの目論見通り。だが、しかし、ツンキー。残念だったわね。敵に回した相手が私だったことを後悔するがいい。
「それでね、そのとき澤田君がこいつには手を出すなって菜々の前に現れてさ〜」
「ボコボコに殴られそうになっていた私を助けてくれたの」
「キャー!澤田っちカッコイイ〜!」
「やばいっ!推せる〜っ!」
教室のド真ん中。鈴花とタックを組み、ツンキーに絡まれたときの出来事を少女漫画の主人公目線でクラスメートに言い回る。
頬を染めて話す私にクラスメートの女子たちは大盛りあがり。ツンキーの流した噂は霧のように霞み、すっかり私が澤田君から助けられたって話に作り変わっている。
ふふふ。ツンキーめ。乙女の胸キュン好きをナメるなよ。そちらの中では少年漫画のような展開にしたかったのだろうが、こちらの愛読書は少女漫画だ。
そちらの界隈であくどく暴れまわっているであろう卑劣な悪役は、こっちの界隈では無敵の俺様ヒーローとして描かれているのだよ。
視点が変われば立ち位置も立場も価値観も変わる。この恐ろしさ、その身をもって知るがいいと、心の中でダークに叫ぶ。
澤田ヒーロー爆誕である。