身代わり同士、昼夜の政略結婚
籠を降りると、ざわめきがベール越しに聞こえる。
「見たか、珍しい。みの虫姫だ」
「今日は白いな。陛下にご挨拶に行かれるのだろう」
「ああも顔も髪も分からなくては、声を掛けるどころではない。ぐるぐる巻きにされたみの虫を、どのように愛せと言うのだ」
「声はくぐもってよく聞こえぬうえ、肖像画が正しいかどうかも分からぬ。いくら姫とはいえ、相手に選べと言うには酷なお人よ」
手先が美しい、というのが、わたくしに向けられる唯一の褒め言葉。
淑女らしく髪を結い上げると、顔を覆う分厚いベールで髪も見えなくなり、服は褒めにくいために、指先くらいしか褒めるところがないのである。
せめてもと指先に力を入れて美しく重ね、椅子の上に下ろされたのを確認して背もたれに背中を預ける。
ざわめきを聞くに、大臣たちと、王子王女が全員集められている。
「みな、顔を上げよ」
父王の声に合わせて、重たい首を少し持ち上げる。さらりと衣擦れの音がした。
「この度みなを集めたのは、他でもない、同盟の話だ」
大きくなるざわめき。
「オルトロス王国より、同盟——正確には、政略結婚の話が来ている。……我が国の第一王女と、彼の国の第一王子を結びたいという申し出である」
ヒュウともヒイともつかぬ、息の通る音がした。しんと静まり返った広間に響いた、遠くの方でか細く押し殺した悲鳴は、第三王女のものだろうか。
オルトロス王国は、通称、夜の国。
我が国とは大陸の正反対にある、日の昇らぬ国。常夜の王国、黒の国。
暗いところなどほとんどない我が国からしたら、考えるだにおぞましい、大陸の中で一番忌避される国である。
「見たか、珍しい。みの虫姫だ」
「今日は白いな。陛下にご挨拶に行かれるのだろう」
「ああも顔も髪も分からなくては、声を掛けるどころではない。ぐるぐる巻きにされたみの虫を、どのように愛せと言うのだ」
「声はくぐもってよく聞こえぬうえ、肖像画が正しいかどうかも分からぬ。いくら姫とはいえ、相手に選べと言うには酷なお人よ」
手先が美しい、というのが、わたくしに向けられる唯一の褒め言葉。
淑女らしく髪を結い上げると、顔を覆う分厚いベールで髪も見えなくなり、服は褒めにくいために、指先くらいしか褒めるところがないのである。
せめてもと指先に力を入れて美しく重ね、椅子の上に下ろされたのを確認して背もたれに背中を預ける。
ざわめきを聞くに、大臣たちと、王子王女が全員集められている。
「みな、顔を上げよ」
父王の声に合わせて、重たい首を少し持ち上げる。さらりと衣擦れの音がした。
「この度みなを集めたのは、他でもない、同盟の話だ」
大きくなるざわめき。
「オルトロス王国より、同盟——正確には、政略結婚の話が来ている。……我が国の第一王女と、彼の国の第一王子を結びたいという申し出である」
ヒュウともヒイともつかぬ、息の通る音がした。しんと静まり返った広間に響いた、遠くの方でか細く押し殺した悲鳴は、第三王女のものだろうか。
オルトロス王国は、通称、夜の国。
我が国とは大陸の正反対にある、日の昇らぬ国。常夜の王国、黒の国。
暗いところなどほとんどない我が国からしたら、考えるだにおぞましい、大陸の中で一番忌避される国である。