身代わり同士、昼夜の政略結婚
がばりと体温が離れる。頭と腰は捕まえられたまま、できるだけ柔らかく微笑む。


「わたくしも、いつか殿下と直接お話したいと思っておりますの」

「……ありがとうございます。嬉しいです」

「まだ、すべてを外す勇気が出なくて……」


ですから、その。今日は。


「……一枚だけ、でしたら」


約束の期限まで、あと三週間。まだまだ重なったベールを取り払うには時間がかかりそうなのだけれど、少し前進したい。


「わたくし、自分ではどうしても恥ずかしくて仕方がないのです。……殿下が、外してくださいますか」


伺うと、殿下が少し身じろいだ。


「私の手元が誤るか勢いが余るかして、すべて外してしまったらどうするんです」

「あら、殿下はそのようなことはなさいませんわ。そうでしょう?」


そうっと手を重ねると、低い体温が混ざる。


「信じておりますわ、アステル殿下」

「ずるいなあ、あなたは。信じてくれてありがとう」


この布の先に殿下の顔があると思うと、何だか目が合いそうで、顔を上げられなくて、俯きがちに横を向く。


導いたベールの裾を、節の高い指が一枚だけ引っ掛けて、はらりと落とした。
< 25 / 65 >

この作品をシェア

pagetop