身代わり同士、昼夜の政略結婚
次に目を覚ましたのは、慌ただしいざわめきの最中。アステル殿下によれば、わたくしは一日中寝込んでいたらしい。


ベッドサイドに差し出されたぬるい液体を一口、おそるおそる飲む。


喉を湿らせるように落ちていった熱は味がしない。ただのお湯にほっとする。


オルトロス国民は舌を火傷しやすいので、湯気が立つお茶を飲むことはできない。アマリリオ王国でのあたたかいとは、こちらでの熱い温度のことを言う。


おそらくこのお湯の熱さは、オルトロス王国において、通常、客人や貴人に出すような温度ではない。


わざわざ熱いものにするよう、誰かの指示があったと伺える。その指示は、きっと、目の前の人が出してくれたに違いなかった。


初めてすべて飲み切ったわたくしに、アステル殿下はやはりと言いたげに頷いた。


「無理を、させてしまいましたね」


させてしまいましたか、ではない。断定である。


「大変よくしていただいておりますわ。オルトロス王国は、アマリリオと似ているところがあり、嬉しく思っておりました。ですがやはり環境が違うこともあり、いまだ不慣れなためかと思います」


無理をしたと言いたくないわたくしの遠回りな説明に、殿下はゆるく首を振った。


「ミエーレ殿下。私はこの国が、あなたにとって住みやすい場所になればと、申し上げました」


責める声色ではなかった。静かで、どちらかと言えば困っていた。


「この国を好きになっていただけたら、嬉しい。あなたは私の婚約者、馴染もうとしてくださるお心を嬉しく思います。ですが、大切なお客さまでもあるのです」
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