身代わり同士、昼夜の政略結婚
するりと頭を撫でられて目を覚ます。


こちらの身じろぎに合わせて誰かがベッドから立ち上がり、銀の枠に渡した板がギイと短く軋んだ。

板の上に厚いマットを敷き、手触りのよいシーツがかけられているのだけれど、いまだ慣れない。贅を尽くして貰っているなあと、寝る度に思う。


喉の渇きを癒した後、わたくしは、すとんと寝落ちたらしい。


まだぼんやりしたまま、頭を離れていった優しい手の行方を、視界を塞ぐ布の向こうに両手を伸ばして探した。こちらに来てからすっかり慣れた、大きな手だ。


「殿下……アステル殿下……?」


やっぱり、ベッドに浅く座っていたのは殿下らしい。


「はい、おりますよ」


優しく手を取られた。殿下の低い体温が、するするとこちらの熱を吸い上げていく。


「でんか、今、わたくし、熱いかもしれなくて……」


両国における、あたたかいと熱いの間の隔たりは大きい。


体調不良とまどろみがセットになって、わたくしの体温は少し高くなっていると思う。

殿下にとってはおそろしく熱い部類に入りはしないかと、心配になった。


「大丈夫ですよ。私は、この国では熱さに強い方ですので。あなたはひなたの人です」


ちょうどよく、ぬくぬくぽかぽかだと言いたいらしい。


「熱くないですか」

「ええ」

「いたくないですか?」

「ええ」

「ほんとうに……」

「ええ、本当に」


優しい相槌が一つずつ落ちるのを聞く間も、少しずつ体温が混ざる。


アステル殿下が氷みたいに冷たいから、じゅうじゅう音を立てて溶けてしまうのではないかと、馬鹿みたいなことを思った。


ああ、そうだわ。こういうとき、こちらでは、氷ではなくて銀みたいに冷たいと言うのだった。
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