身代わり同士、昼夜の政略結婚
「ミエーレ殿下、顔も汗をかいているのでは?」

「かいています……」


四六時中ベールをしたままなので、当然、寝るときもかぶっている。


わたくしは、明るい部屋では寝られないタチだった。

だというのに母国は明るさの極まる国で、窓を減らし、重いカーテンを閉じ、そのうえでベールをかぶらなくては眠れたものではなかった。


熱のせいばかりでなく熱い。普段は肌触りのよいベールが、汗に湿り、水分を重く含んで顔に張りついている。


呼吸をするだけで吐息とともに熱がこもり、ベタついた布が不快に上下した。


「私、失礼しますね。侍女たちにも、拭くものを持って来たらしばらく外で待機するよう伝えます」

「アステル殿下?」


意図を掴み損ねて聞き返す。


「ミエーレ殿下、この国の暗さなら、人がいなければ、ベールを脱いで寝られませんか?」

「へっ?」


ベールなしで寝るなんて、考えたこともなかった。


でも確かに、ここはオルトロス王国、夜の国。


ベッドサイドに母国のようなカーテンはないけれど、燭台の灯りを消せばすっかり暗く、眠りを妨げるものは何もない。

窓の向こうに規則正しく並んだ街灯は、闇の明度を少しだけ上げているものの、外の景色を見に窓に近づかなければ、気になるほどの光ではなかった。


「寝られると、おもいます」


弾き出した結論に、アステル殿下はほっとしたように微笑んだ。
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