身代わり同士、昼夜の政略結婚
「よかった、ではそうしましょう。具合の悪いときに顔周りに布があっては、さぞ寝苦しかろうと思っていたのです」

「ご心配を……」

「いいえ。ご提案するのは、かえって不躾ではないかという心配もしておりましたので」


お気になさらず、と言い置いて、乱れた布団を整えてくれる。


「枕元に呼び鈴を置きますから、何かあったら侍女でも私でも呼んでください。明日、目が覚めて回復されていたら、またお会いしに来ます」


殿下の口調は、こちらを慮ってか終始ゆっくりと低く、小さかった。


すごい。王子なのにというと失礼かもしれないけれど、細々したところが手慣れている。


もしかすると、殿下自身が、体調不良のとき、こうして優しくしてもらってきたのかもしれない。

でもそれをきちんと覚えていて、ましてやみの虫な婚約者を気遣ってくれたのは、殿下自身の配慮によるものだわ。


呼ばれるまで、侍女も、自分も、この部屋には立ち入らない。わたくしの気持ちには、踏み入らない。


これは、そういう約束。


お互いに王族とはいえ、ここは殿下の生まれた国。

殿下の権限でどうとでもなるでしょうに、それをわたくしのために使うのだから、優しいお人柄に多少の目眩がしても、許されると思いたいわ。


「でんか」


声が掠れた。虫の羽音ほど小さいこちらの呼びかけに、アステル殿下は「はい」とやはり穏やかに答えた。
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