身代わり同士、昼夜の政略結婚
「太陽や明かりを意味する名前をつけるのが一般的なアマリリオ王国で、わたくしの名前は、二番手の名前です」


ミエーレ、と大きな手のひらに指文字を綴る。


「姉はソレイユと申します。太陽を表す言葉のうち、最も一般的で最上の名前です。姉に太陽と使ってしまったから、わたくしはミエーレ、蜂蜜というのです」


姉は太陽の髪。わたくしは蜂蜜の髪。けれど、どちらも金の髪。


「私の名前も、あなたと同じ二番手の名前ですよ。この国では、フェンガル、月明かりが最上の明かりです。私はアステル、星を指す言葉から名付けられました」


月の輝きよりも小さい瞬き。次期国王たる兄よりも控えめであれという願いだと、対外的には受け取られるだろう。

アステル自身もそう思っているのかもしれない。


同盟を結んだばかりだもの。国を盛り立てていくには、内乱は起こせない。


王太子の評判は悪くない。支える方が賢明だろう。アステルは内乱を起こすような人柄でもない。


「アステル、あなたは瞳に三日月をお持ちですもの。月も星もお持ちなんて、あなたの髪は、夜空そのものみたいだわ」

「ありがとうございます。金の輪の目は、畏怖されます。黒髪なのは幸いでした」


目にかかる髪を払うアステルの声が、隠しようもなく暗い。


それに気づかないふりをして、アステル、と指文字を書いてくれたまま宙に彷徨う大きな手を、両手で包む。


「それに、どちらもルで終わるなんて、お揃いみたいで羨ましいわ」
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