身代わり同士、昼夜の政略結婚
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お懐かしいお母さま
先日は、お忙しいところ、わたくしたちの式にご参加いただきありがとう存じます。
久しぶりにお会いでき、夫を紹介できたことを、嬉しく思います。
お父さまとソレイユお姉さまには他にお手紙をお送りしていますから、どうぞご心配なさらないで。
かわいいヘリアンサスをはじめ、幼いきょうだいたちには、姉は元気で幸せそうだとお伝えくださいませ。
わたくしは、アステル殿下と結婚したことを、本当に嬉しく思っております。
梟殿下と呼ばれるお方、異国の土地に嫁いだわけですから、たくさんご心配をお掛けしたことと推察いたします。
ですが、梟は実は凶暴でも獰猛でもないのだそうです。日の光に満ちた国には、暗がりを好んで住む鳥の実情が分からないだけのこと。
殿下はとても穏やかな方で、お優しくていらっしゃいます。
わたくしが持参した金木犀と銀木犀に合わせ、枯れぬ花を返したいと、宝石で造らせた花束を贈ってくださいました。
式の会場に飾っておりましたから、お母さまもご覧になったかもしれません。
たいへんまばゆく、うつくしい、心のこもった贈り物をいただけたこと、その贈り物が、わたくしが老いても変わらずまばゆいことを思うと、嬉しくてなりません。
お母さまは、ベールを外したわたくしに驚いていらっしゃいましたね。
何も暗いから外しているわけではありません。殿下とお話するうち、この方と布で隔てずにお話したいという気持ちが大きくなって、少しずつ外してゆきました。
わたくしがすべてを外すまで、殿下は慌てず、ひと月ほども待ってくださいました。
国をかけた、同盟のための結婚を待ってくださるとは思いもよらず、大変驚きましたが、お優しい殿下のお気持ちを嬉しく思います。
お母さま。
どうぞ、ご心配なさらないで。あなたの娘は幸せに暮らしております。
わたくしにとって、いかにオルトロス王国が過ごしやすい気候で、殿下がよいお方であるか、式を通してお分かりいただけたことと思います。
お返事をいただく頃には、殿下は地位をも、義父たる王さまのお足下にお返し申し上げているでしょう。
公爵として王族の籍を抜け、領地を賜って、お兄さまの治世の際に、その政の補佐をしていく予定です。
幸い、多少の知識はございますから、主に同盟の維持とよりよい交易についてわたくしも微力を尽くし、お支えしたいと考えています。
公爵としての新しいお名前は、パイオンと候補が出ております。
オルトロス王国では、白と黒を混ぜた灰色を意味すると伺いました。昼夜の国を繋いだわたくしたちの門出に、大変ふさわしいように思われます。
わたくしはミエーレ・オルトロスになると思っておりましたから、臣籍に下るのはどうにも不思議な気分です。
ですが、きっと殿下となら、前を向いてゆけると、確信しております。お父さまとお母さまのように、二人でよく話し合い、困難を乗り越えてまいります。
随分と久しぶりにお手紙をお送りするものですから、すっかり長くなってしまいました。名残惜しいですが、あまり長くなるとお手間ですから、このくらいにいたしましょう。
名前が変わりましたら、またお手紙差し上げます。
わたくしの幸せな婚姻が、故郷アマリリオと優しいオルトロスとを、さらに豊かにすることを願っております。
金木犀の傍らにて
いつまでもお母さまの幸せな二番目の娘
ミエーレ・アマリリオ
先日は、お忙しいところ、わたくしたちの式にご参加いただきありがとう存じます。
久しぶりにお会いでき、夫を紹介できたことを、嬉しく思います。
お父さまとソレイユお姉さまには他にお手紙をお送りしていますから、どうぞご心配なさらないで。
かわいいヘリアンサスをはじめ、幼いきょうだいたちには、姉は元気で幸せそうだとお伝えくださいませ。
わたくしは、アステル殿下と結婚したことを、本当に嬉しく思っております。
梟殿下と呼ばれるお方、異国の土地に嫁いだわけですから、たくさんご心配をお掛けしたことと推察いたします。
ですが、梟は実は凶暴でも獰猛でもないのだそうです。日の光に満ちた国には、暗がりを好んで住む鳥の実情が分からないだけのこと。
殿下はとても穏やかな方で、お優しくていらっしゃいます。
わたくしが持参した金木犀と銀木犀に合わせ、枯れぬ花を返したいと、宝石で造らせた花束を贈ってくださいました。
式の会場に飾っておりましたから、お母さまもご覧になったかもしれません。
たいへんまばゆく、うつくしい、心のこもった贈り物をいただけたこと、その贈り物が、わたくしが老いても変わらずまばゆいことを思うと、嬉しくてなりません。
お母さまは、ベールを外したわたくしに驚いていらっしゃいましたね。
何も暗いから外しているわけではありません。殿下とお話するうち、この方と布で隔てずにお話したいという気持ちが大きくなって、少しずつ外してゆきました。
わたくしがすべてを外すまで、殿下は慌てず、ひと月ほども待ってくださいました。
国をかけた、同盟のための結婚を待ってくださるとは思いもよらず、大変驚きましたが、お優しい殿下のお気持ちを嬉しく思います。
お母さま。
どうぞ、ご心配なさらないで。あなたの娘は幸せに暮らしております。
わたくしにとって、いかにオルトロス王国が過ごしやすい気候で、殿下がよいお方であるか、式を通してお分かりいただけたことと思います。
お返事をいただく頃には、殿下は地位をも、義父たる王さまのお足下にお返し申し上げているでしょう。
公爵として王族の籍を抜け、領地を賜って、お兄さまの治世の際に、その政の補佐をしていく予定です。
幸い、多少の知識はございますから、主に同盟の維持とよりよい交易についてわたくしも微力を尽くし、お支えしたいと考えています。
公爵としての新しいお名前は、パイオンと候補が出ております。
オルトロス王国では、白と黒を混ぜた灰色を意味すると伺いました。昼夜の国を繋いだわたくしたちの門出に、大変ふさわしいように思われます。
わたくしはミエーレ・オルトロスになると思っておりましたから、臣籍に下るのはどうにも不思議な気分です。
ですが、きっと殿下となら、前を向いてゆけると、確信しております。お父さまとお母さまのように、二人でよく話し合い、困難を乗り越えてまいります。
随分と久しぶりにお手紙をお送りするものですから、すっかり長くなってしまいました。名残惜しいですが、あまり長くなるとお手間ですから、このくらいにいたしましょう。
名前が変わりましたら、またお手紙差し上げます。
わたくしの幸せな婚姻が、故郷アマリリオと優しいオルトロスとを、さらに豊かにすることを願っております。
金木犀の傍らにて
いつまでもお母さまの幸せな二番目の娘
ミエーレ・アマリリオ