お針子は王子の夢を見る
 マノンとシェルレーヌは同じ年で、友人としてこの街で仲良く育った。マノンもまた寡婦で、夫からこの工房を受け継いで続けていた。子供のいない彼女は昔からルシーを娘のようにかわいがってくれていた。母の見舞いにも頻繁に来てくれた。
「では、お願いします」
 マノンに頭を下げてから、フィナールに向き直る。

「参加させていただきます」
「よろしゅうございました。では私はこれで失礼いたします」
 彼は優雅にお辞儀をして去っていった。
 彼が去ると、店はいつも通りの雰囲気を取り戻した。

 壁にかけられた色とりどりの布とサンプルの糸を巻いた糸巻き。トーションレース、リバーレースやリボン、縁飾りが掛けられた棚。ビーズや(ボタン)の入った小箱がいっぱいの棚。布を広げるためのテーブルは木製で、年季が入っていた。

「忙しくなるわね。あんた、自分のドレスも縫わなくちゃいけないのよ」
「そうだわ、どうしましょう、布を買うお金なんてないわ」
「いいわよ、今回は特別手当っていうことで私が出すから」
「でも」
「うちが王室御用達になれたのもあんたのおかげよ。布地は私が選ぶわね、あんたに選ばせると遠慮して舞踏会には不釣り合いなものを選びそうだもの」
 マノンはそう言って笑った。

「ありがとうございます」
 ルシーは深々と頭を下げた。
 気がつくと、工房入口に四人の女性が鈴なりになっていた。

「すごいじゃない!」
「いいなあ、舞踏会」
「嫌ならいつでも変わってあげるわよ」
「私にも招待状を見せて」
 目をきらきらさせて言ってくる。

「ダメよ、まだ私も見てないんですもの」
 ルシーはふふっと笑って招待状を胸に抱いた。
「仕事は今まで通りきちんとやってもらうからね」
 マノンに言われて、ルシーは、はい、と明るく答えた。
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