お針子は王子の夢を見る
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「招待を受けるそうです」
フィナールに言われ、エルヴェは満足そうにうなずいた。
その胸には、ゆるやかに燃える気持ちがあった。
誰にも言ってはいない。
エルヴェは恋をしていた。服を作ったというお針子に。
一度も会ったことはない。だからこそ、会いたかった。
最初は着心地のいい服に感心しただけだった。
この服はいいな、と褒めたら、フィナールはその者にまた発注をしてくれた。
そうして次第に、どのような女性が服を縫っているのだろう、と気になるようになった。
そんな頃だった。
飼っている犬が室内に置かれた服にじゃれつき、襟口をボロボロに噛んだ。綻びができてしまい、せっかくの服が、と破れ目を眺めた。
そのときに、見つけてしまった。
『この服を着るあなたが幸せでありますように』
内側に、ひっそりと縫い取りがあった。
年頃の女性だと直感し、胸が高鳴った。
それとなくフィナールに聞いたら、やはり妙齢の女性だと言う。
会いたい。
すぐにそう思った。
「どのような女性なのか」
まだ見ぬ恋の相手に、エルヴェは胸をときめかせた。
きっと優しい人だ。女神のように美しいに違いない。
勝手に妄想を膨らませていく。
もしかしたら想像とはまったく別の個性的な顔立ちの人かもしれないのに、彼の頭の中では好みの美少女が「私もお会いしたいと思っていました」と答えてくれることになっていた。
「普通の貧相な町娘でございましたよ」
彼の中の想像を察して、フィナールは言った。
若者にありがちな自分に都合のよい空想を否定しておきたかった。実際に会ったときにがっかりしないように。
「そうか……」
エルヴェは気にした様子もなくうなずく。
「早く会いたい」
彼は窓の外を見てつぶやく。
夕日が城を照らして、赤く沈むところだった。