ひとつ屋根の下、先生とヒミツの研究 (短)
「私を黙らせるためだけにハグして、名前を呼んだんですか?
そうだとしたら、最低……やっぱり大人は汚いです。
先生が汚いのは体だけかと思ったら、心までなんて……っ!」
「はい、ストップ」
「ノンストップです!」
ムガー!と腕の中で暴れる私。
そんな私の目の前に「はい」と。風で折れたらしい、桜の枝が現れる。
枝の先には、たくさんの蕾(つぼみ)が引っ付いている。
その中に、わずかに開いた花が一つと、完全に開いた花が一つ。
それを見て「開花してるのが俺ね」と。
当たり前のように先生が言った。
「俺はね、この咲きかけの花を待ってるの」
「待つ?なにをですか?」
「完璧に開花するのを、だよ。2つの花が揃って開花した時、初めて出来ると思うんだ」
「出来るって……なにを?」
コテン、と頭を倒した私に、先生が笑った。
そして何も言わないまま、私の唇をツイと指の腹でなぞる。
その時の先生の瞳は、まるでキスを求めるような――そんな確かな熱を持っていた。