こんな雨の中で、立ち止まったまま君は

 駅前の明かりが見えてくる頃、

 急に立ち止まった彼が振り向いた。


 うつむいて歩いていた俺は、その背中にぶつかりそうになった。

 慌てて立ち止まると、「ごめんごめん」と彼は小さく笑った。


「もしも何かあった時には、ここに連絡もらえるかな」


 そう言って彼が差し出したのは、一枚の名刺だった。

 会社名と、その下に名前が書いてある。


“飯島 悟”


 彼の、名前だろう。


「連絡?」

「彼女に、何かあった場合にね」


 訳が分からないまま受け取った俺に


「一番下に俺の携帯書いてあるから」


 そう言った彼…飯島さんは、


「名前、聞いてもいいかな?」


 あの柔らかい口調で微笑んだ。


 細い目をそのまま見てしまうと恐い印象を受けるのだが、

 こうして微笑む彼の顔は何となくほっとする優しさがある。

 きっと、穏やかな人なんだろう。


「あ、藤本…淳です」

「藤本くん、ね」

「はい」


 軽く見上げると、彼はゆっくりと頷いた。



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