こんな雨の中で、立ち止まったまま君は
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飯島さんの言葉がずっと気になっていた。
『君が傷つくことになる』
…どういう意味なのか。
そもそも、深入りするなというあの忠告は、何なのだろう。
小川さんの友人と言いながらどうして…
あんなに優しい目で、彼女を見るのだろう。
あんなに優しい手で、彼女の髪を撫でたのだろう。
あの日から一週間以上が過ぎた。
飯島さんの言葉はずっと頭の隅の方に張り付いたままだったけれど、
彼の忠告とは裏腹に、小川さんの方から店に来るようになっていた。
歩道橋の見えるコンビニでバイトをしていると言った俺の言葉を覚えていた小川さんが、仕事帰りに時々足を運んでくれるようになったのだ。
始めは変な気分だった。
図書館のカウンターとコンビニの窓越し、
いつも何かを挟んで顔を見ているだけだった彼女が近くにいることに。
ほんの少しいつもとは違う行動をとることで、現状は不思議なほど変わっていく。
交わすのは立ち話程度の会話だけれど、
それでも俺は、彼女が店にやってくるのが楽しみだった。
彼女はひかえめに微笑んで、
お茶やガムとかの小さいものを買って、
小さく手を振って、
アパートに帰っていく。
そんな数日が過ぎた。
あれからずっと雨は降っていない。