こんな雨の中で、立ち止まったまま君は

 風も道路も裸になった街路樹の枝々も、ほんの少しの湿りも感じさせないほどに乾いた日が続いている。


 12月を目前に控えた街並みは、淡々とクリスマスの準備に取り掛かっていた。


 まだまだ控え目だけれど、青や赤のイルミネーションがまず駅前を飾り始め、

 サンタやスノーマンの置物がその周辺に並べられている。


 つい二日前、コンビニ前の通りの街灯にも星形のライトがくくり付けられた。


 まだ明かりは点されてないけれど、12月に入ればこの辺もすぐに華やぐだろう。

 去年がそうだったように。


 歩いているだけで周りから肌に伝わってくるそわそわ加減はこの時期特有の空気だ。


 乾燥してるのに、気持ちの体温は高い。

 もっともそれは、恋人だとか、大切な人と呼べる相手がいる人間だけなのかもしれないけれど。


 俺にとってはこの数年間、クリスマスなんて傍迷惑なだけの行事になっている。

 あちこちに人が溢れかえって、何をするのもやりにくい。


 去年にいたってはコンビニでサンタの格好をさせられて散々な思いをした。

 もし今年もそれをやるのなら、その役は田中に引き継ぐことに決めている。

 あいつならきっと、喜んで引き受けるだろう。


 だがそれも、田中がその日にシフトを入れることを拒まなければ…の話だ。

 クリスマスにそれなりの予定が入っていれば、

 いくらアイツでもサンタをやらせる為だけにシフトを組んでしまうのは可哀想だ。


 まあそんなことを言っても俺達のようなバイトの身分では、

 シフトに意見することなどそうそうできる事じゃない。


 大抵は既婚者やパートのおばさんに合わせてシフトの振り分けをされる。

 わがままは言えない立場だ。




< 108 / 280 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop