こんな雨の中で、立ち止まったまま君は

 田中とバイトに入っていた深夜、


「今年はお前がサンタクロースの役だな」


 冗談めかして言ったのだけれど、


「サンタクロースっすか? いいっすね」


 簡単に答えが返ってきて驚いた。


「クリスマスだぞ、一応。予定ねーの?」

「俺、つい最近彼女と別れたんっすよ」

「え?」

「だから別に問題ないっす。どうせ友達もデートとかだろうし」

「そっか」


 過去形になってしまったようだが、

 田中にもそういう相手がいたのだと分かると、改めて俺はコイツについて何も知らなかったことに気づかされた。


 田中とは半年以上もこうして一緒にバイトについているのに、

 学生であるとか、金髪に近い頭だとか、そんなことしか分かっていなかった。


 まあ別に興味も無いのだが、

 何だか可哀想なことを言ってしまったなと思っていると、


「で、サンタの衣装ってどうするんっすか? まさか自前じゃないっすよね」


 乗り気な返事が返ってきて、

 真剣なその顔に苦笑した俺は、去年のケーキ売りやら何やらの苦労話を聞かせてやった。


 田中のサンタはほぼ決定だろう。






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