こんな雨の中で、立ち止まったまま君は
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11月最後の月曜日、俺は小川さんと電車の中にいた。
動物園へ向かう車内には午前中の真っ直ぐな陽光が差し込んでいる。
前のシートに覆いかぶさるように照らしている光は、
座っている人達の髪に反射してやけに眩しく感じられた。
小川さんは右手でつり革につかまって、車窓に流れる景色を目で追っている。
強く差し込んでくる光に彼女は何度も目を細め、
長いまつげのまぶたを伏せたり持ち上げたりを繰り返していた。
俺はその隣りで同じようにつり革につかまりながら、
そんな小川さんの様子をちらちらと見ていた。
「久しぶりだなぁ、この辺。あの大きいビル、あんなところにあったっけ?」
興味津々に独り言を呟く小川さんは、
景色の裏側までも見ようとするように窓の外にじっと目を凝らす。
そんな彼女の横顔を見ていると、
胸の内に何か温かいものが沸いてきて、自然に頬が緩んだ。
窓の外の青空は、街を見下ろすようにして広がっている。
ちぎれた雲の隙間を、数羽の鳥が転がるみたいにして飛んでいる。
同じものを並んで見ているのかと思うと、ますます頬が緩んでくる。
俺はもう完全に、小川さんに恋をしている、
そう思った。