こんな雨の中で、立ち止まったまま君は
小川さんの頬に薄っすらと赤みが戻るころ、
外にはいつのまにか夕焼けが広がっていた。
柔らかい冬の夕焼けが、小川さんの顔を照らして壁にまで届いている。
二人でオレンジ色の雲をぼんやりと眺めながら、時間はゆっくりと過ぎていった。
カーテンを閉めて部屋の明かりをつけるころ、
小川さんが作ってくれたパスタを二人で食べた。
俺はすっかり帰るタイミングを失っていた。
夕食のあとに淹れてもらったコーヒーを飲みながら、これを飲み干してしまったら帰ろうと思っていた。
彼女と離れる寂しさを感じながら。
けれどコーヒーを飲み終わったあと、
小川さんは一緒に映画を見ようと言い出した。
少しでも長く一緒にいれるならば、と思った俺はそれに頷いた。
小川さんが迷惑でない限り、映画一本分の時間くらい、ここに居てもいいだろう。
ソファに腰かけて小川さんと並ぶと、
外では気づかなかったいつもの彼女の香りがふわりと流れてきた。
紅茶の香りに似た、シトラス系の、寂しげな香りがソファの周りを包む。
夜に戻ると、小川さんはいつもの小川さんだった。
隣りに座る彼女からはもう、儚げないつもの雰囲気が漂っていた。
映画を見ているあいだ、小川さんはひと言も声を発しなかった。
すぐ隣りに座っている彼女をおもむろに眺めることもできず、
俺も無言のまま画面に目をむけていた。
映画は随分昔の洋画で、二人の男女の恋模様が描かれていた。
雨の降るシーンはなかったけれど、女優の雰囲気が何となく小川さんに似ていた。
横顔などは、一瞬見間違えてしまうほどにそっくりだった。
それだけ悲しく儚くて、そして、美しかった。