こんな雨の中で、立ち止まったまま君は

 指先で涙を拭うと、小川さんの顔がゆっくりとこちらを向いた。


 涙でいっぱいになった瞳から、また一筋の涙が零れ落ちた。

 頬においた俺の手を静かに流れて、

 染み入るように、濡らす。



 小川さんは俺の顔をじっと見つめたままで小さな嗚咽を繰り返していた。

 細い首筋が、何度も何度も声にならない音を上げている。


 拭っても拭っても、彼女の涙は止まらなかった。

 片手では拭いきれず、両手で彼女の頬を覆った。

 温かくて冷たい涙は、俺の手のひらと小川さんの頬の間で、まるで降り止まない雨のようだった。



 声をかけるより先に俺の体が動いていた。

 両腕を彼女の体に回し、気づけばしっかりと抱きしめていた。


 小さな肩が、俺の胸の中で震えている。


 背中を撫で、髪を撫で、

 子猫のように頼りないその体を何とかして落ち着かせようと思っているうちに、

 俺の唇は、濡れた彼女の唇の上に降りていた。


 触れた唇から、彼女の体温が伝わってくる。


 ゆっくりと顔を戻すと、濡れたまつげを持ち上げたばかりの小川さんがじっと俺を見つめていた。


 驚きも戸惑いもない表情だった。



 自分のしたことに気づいたのは、それから数秒が経ってからだ。


「すみません」


 慌てて体を離すと、


「ううん、いいの」


 小川さんは小さく微笑んだ。



 涙が残ったままの瞳で―――





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