こんな雨の中で、立ち止まったまま君は

 写真の男性が気になっていた。


 一度図書館へ行ったときに、思い切って聞いてみようとしたのが、

 触れてはいけないような気がしたことと、

 俺にとっての最悪な結果……彼氏かもしれないということと、

 何より、

 手帳から勝手に引き抜いて見てしまったことがばれるのが恐くて何も聞けなかった。



 圭吾とも会った。

 オヤジさんの店で、アルコールの入った勢いで小川さんのことを話した。


 圭吾は驚きを隠せない、という顔で俺の話にいちいち反応しながら頷いていた。

 それもそうだろう。

 女の話なんて、圭吾の前でしたことがない。


 第一、俺に恋心が残っていたということに、自分が一番驚いているのだから。

 話せば話すほど、自分はやはり彼女に惹かれているのだと強く感じた。


 その日は珍しく二人でカウンター席に座っていたので、

 たぶん、オヤジさんも後ろ背に俺の話を聞いていたと思う。


「お前が女の話をするなんてな」


 話し終わった俺に、圭吾は目を丸くしながらも何となく満足気な顔で笑っていた。

 オヤジさんは何も言わなかったけれど、

 静かな背中で耳を傾けているのが分かった。




< 126 / 280 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop