こんな雨の中で、立ち止まったまま君は

 11時を過ぎていた。

 冷たい雨が、ビニール傘とダウンジャケットの肩にへばりつくように群がっている。


 玄関先でそれを振り落としながら、

「こんな時間に…」と来たことに少し後悔したけれど、

 引き返すこともできずに呼び鈴を押した。


 彼女の顔が見たかった。

 見れば安心すると思っていた。

 自分勝手な考えだ。

 風邪で寝ているかもしれないというのに。


 
 一回のベルで彼女が出てこなかったら帰ろう。

 そう思って二回目を押すことはせずにその場に立って待っていた。


 中から足音がして、玄関へ近づいてくるのが分かった。

 それが、扉を挟んで目の前で、

 一瞬だけ躊躇している感じが伝わってくる。


 きっと、覗き窓からこちらを伺っているのだろう。

 こんな時間だ。無理もない。


 しばらくすると、チェーンと鍵を外す音がした。

 ゆっくりと、扉が開く。



「こんばん…」

「どうしたの、こんな遅くに」


 最後まで言葉が言えなかったのは、遮られたからではない。

 中から顔を覗かせたのが、



 飯島さんだったからだ。




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