こんな雨の中で、立ち止まったまま君は
ソファにかけてあったシャツをつかんだ飯島さんは、
Tシャツの上にそれを羽織って、ボタンをかけ始めた。
「何か飲む?」と呟くように俺に話しかける表情はいたって冷静だった。
飯島さんがシャツのボタンをかけ終えるまでの間、
俺は彼の言葉に少しの反応を示すこともできずにただ突っ立ったまま、小川さんの白い肩を眺めているしかなかった。
この状況で、何が言えるだろうか。
床に広がるスカートのほかに、
掛け布団の上のブラウスにも気が付いた。
無造作に脱ぎ捨てられている。
脱ぎ捨てたのか、脱がせられたのか。
どっちにしても、そのブラウスが小川さんの体から剥がされたことには変わりはない。
考えられることといえばたった一つで、
それについて今自分が何をどんなふうに反応すればいいのかなど検討もつかなかった。
真っ白だった頭と体のなかに、
例えようの無い感情が込み上げてきた。
いつの間にか強く握り締めていたこぶしに汗が滲んでいる。
強く握っているのに、指先が震えているのが分かった。
震えを抑えようと力を込めれば込めるほど、全身が熱くなる。
何も言わない俺に、飯島さんはそれ以上声をかけてはこなかった。
代わりに「コーヒーでいいかな」と独り言を呟きながら流しに足を運び始めた。
飯島さんが俺の脇を過ぎようとしたとき、
ふわりと、あの香りが鼻を掠めた。
小川さんと、同じ香りだった。