こんな雨の中で、立ち止まったまま君は

 頭のなかで、何かがプチリと切れた。


「何を……してたんですか」


 潰れた声が喉の奥で鳴る。


 通り過ぎた飯島さんに、その声は届かなかった。

 流しでかちゃかちゃとカップをいじる音がする。


「小川さん」


 ベッドで眠る小川さんに声を投げても、何の返事も返ってこない。

 俺は、この部屋のなかで一人だった。


「コーヒー淹れたから、座って」


 カップを手にした飯島さんが部屋に戻ってくる。

 横を通り過ぎるときに、俺はもう一度呟いた。


「何をしてたんですか」

「え?」

「ここで……小川さんと」


 立ち止まった飯島さんは、俺の顔をじっと見ている。

 冷静な、大人の顔で。


 無性に腹が立った。

 持ち上がった俺の腕は、カップを手にしたままの飯島さんの肩をおもいきり押していた。


「あち…」


 飯島さんの声とともに、コーヒーが入ったカップが床に転げ落ちる。

 静かな室内に、それはとても大きな音でフローリングに響き、濡らし、転がった。




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