こんな雨の中で、立ち止まったまま君は
バスルームを出た俺に、奈巳はホットミルクを出してくれた。
奈巳の雰囲気にぴったりのドット柄のマグカップを手にした俺は、
同じドット柄のラグの上に腰をおろした。
奈巳はテーブルの上に頬杖をついて、じっとこちらを見ている。
なにか言いたそうに口を開いているけれど、迷ってるうちに言いそびれる、そんな表情だ。
「急にごめん。遅くに悪かった」
ミルクを飲み干してから口を開くと、
「ううん。別にいいよ」
奈巳は頬杖をついたまま首をふった。
「温まった?」
「うん」
「圭吾とケンカでもしたの?」
「いや、違う」
「仕事でミスでもした?」
「いや」
「……ふーん」
それ以上聞くことを諦めたのか、奈巳は立ち上がってベランダへ向かい、
カーテンを開いて外の様子をうかがっている。
フリース地のパンツにロングTシャツ姿の奈巳の後ろ姿は、
小川さんよりも一回りくらい小さい。
湿った髪の隙間から、首筋の肌色が覗いている。
「寒そう。こんな中濡れて歩いてきたなんて。淳、頭おかしくなった?」
振り向いた奈巳は屈託なく笑っている。
やがてカーテンを閉めた奈巳は、俺の隣りに来てしゃがみ込んだ。
「もう一杯飲む?」
膝を抱えて、じっと俺の目を見つめて返事を待っている。
俺が何も言わずにぼんやりしていると、「あたしも飲もうかな」と言って腰を上げかけた。
そんな奈巳の腕を、俺はぐっと自分の方へ引いた。
バランスを崩した奈巳の体は、
俺の膝の上にふわりと倒れこんだ。