こんな雨の中で、立ち止まったまま君は

 俺がテーブル席を覗き込むと同時に、

 圭吾はトイレから出てくるところだった。


「やっと来たか。遅かったじゃん、何してたんだよ」

「何って、仕事に決まってるだろ。あれからすぐに出てきたんだからな」

「随分待ったそ、俺。すげーヒマだった」

「ヒマでもねーだろ。常連さんと喋ってたんだろ」

「え? あ、オヤジさんに聞いたの?」

「しかしお前は誰とでも仲良くなれるんだな。ある意味尊敬するわ」

「まあ、それが特技だし」


 圭吾はへらへらと笑いながら座布団の上に足を投げ出して座った。

 茶色の剥げたテーブルには、すでに空になった生中グラスが2本乗っている。


「ペース早くね?」

「早くねーよ。だって俺2時間前からここにいるし」

「…ヒマだな」

「ヒマじゃねーって。これでもレポートに追われてんだぞ」

「だったら。今すぐ帰ってレポート書けよ」

「今日、無理。もう飲んでるし」


 まったく。

 口には出さずに俺も座敷に腰かけた。


「お待ちどーさまでした」


 コミヤが生中を運んできた。

 それを見て圭吾が同じものを注文する。


 再びコミヤが生中を運んでくると、

 圭吾は俺が手にしたグラスに勢いよく乾杯した。


「おつかれー」

「おつかれ」

「何だかすんごく疲れた顔してんぞ? 淳」

「…疲れてるし」

「まあ、今日はぱーっとやれや」

「ぱーっと、て。俺は明日も普通に仕事なんだぞ」

「朝から?」

「……いや、明日は夜勤」

「じゃ、いいじゃん」


 何でいっつもコイツは元気なんだろう。

 美味そうにビールを飲む圭吾の顔を見ながら、

 俺も最初の一杯を程なく飲み干した。



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