こんな雨の中で、立ち止まったまま君は
あの日のように。
夢中で駆け寄り、彼女の体を病院へ運んだ日のように。
俺はまた、
駆け出していた。
歩道橋へ。
彼女のもとへ。
放っておけばいいのに。
好きにさせておけばいいのに。
どうして……
それができないのだろう。
誰かを心に住まわせてしまうということは、
こういうことなのだろうか。
どうしてもどうしても追い出せない。
そこに、その人がいると分かっている以上は。
苦しくなるのを知っていて、
虚しくなるのも知っていて、
それでも、やっぱり求めてしまう。
駆け上がった階段の上。
歩道の向こうに、小川さんの姿。
左手に持ったままの傘を地面に投げ出した彼女は、
空を仰ぐようにして雨に打たれていた。
イルミネーションの明かりが、彼女のコートに染み付いた雨に反射する。
この場所からも分かるくらい、小川さんの髪はしっとりと濡れていた。
足を進めて前に出る。
1歩、2歩……
彼女に近づく。
俺の足音が彼女に聞こえる距離に近づいた時、
小川さんはゆっくりとこちらに顔を向けた。