こんな雨の中で、立ち止まったまま君は
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小川さんがバスルームで着替えている間に、
俺は勝手にキッチンを使ってコーヒーを入れた。
着替えを終えてバスルームから出てきた小川さんは、
濡れた髪をタオルで拭きながら、疲れきった顔をしてソファに腰かけた。
コーヒーを差し出すと、彼女は「ありがとう」と受け取り、
床に腰を下ろそうとした俺に、「床は冷たいからここに座って」と隣りを指差した。
俺は言われるままに彼女の隣りに腰かけ、
かける言葉も見つからないまま、少しの時間が過ぎた。
「ごめんね。また迷惑かけちゃったね」
コーヒーを半分まで飲んだ小川さんがぽつりと呟いた。
膝の上でカップを持ちながら、俺は黙って彼女に視線を向けた。
小川さんもまた両手に包んだカップのなかのコーヒーをじっと眺めたまま、また少しの沈黙が流れた。
ここに来ると……あの日の飯島さんと小川さんの姿が必然的に思い出された。
床に視線を定めようとするのだが、
どうしても動いてしまう自分の目は無遠慮なほど部屋の中を彷徨っている。
まるで、どこかに飯島さんの影を探すように。
時々、自動車が立てる水しぶきの音が外から聞こえてくる。
雨がさっきよりも強まったのだろう。
雨どいを下る雨音が高くなっていることにも気づき、
俺はただじっと、その音に耳を傾けていた。