こんな雨の中で、立ち止まったまま君は
カーテンが薄い青に染まっている。
隣りで小さな寝息を立てる小川さんの顔を見ながら、いつしか夜が明けていた。
雨がやんだのだろうか。
ぼんやりとしていて気づかなかったけれど、
鳥の声以外、外からは何も聞こえてこなかった。
彼女の髪を撫でると、そのまぶたが僅かに動いた。
俺の腕に乗せた頭を小さく動かしたけれど、一瞬深く吸い込んだ息を吐き出した彼女は、また小さな寝息を立て始めた。
白い肩に毛布をかけてやりながら、彼女の背中に腕を回す。
昨夜のことを思い出そうとしても、何故だか上手くいかなかった。
これほど現実味のない朝をむかえたのは初めてで、俺は小川さんの寝顔を見ながらぼんやりと鳥の声を聞いていた。
白々とした冬の光が部屋の中にも差し込んでくるころ、
俺は小川さんを起こさないようにそっとベッドから起き上がった。
今日は月曜で、小川さんは休みのはずだ。
着替えを済ませた俺は、そのままバイト先へむかうことにした。
時計を見ると、自分の部屋に戻っている余裕はない。今日は日勤だ。
「……ゆっくり休んで」
枕元に座り、小川さんの寝顔に声をかける。
もう一度布団を掛け直してやって、俺は部屋を出た。
雨はあがっていたけれど、道には雨の痕がくっきりと残っていた。
太陽の光は真横から照らしつけるけれど、朝の空気は射すように冷たかった。
駅までの道、まだ働かない頭の中には、それでも様々な光景が浮かんでは消えていく。
立ち止まった俺は、ポケットから一枚の名刺を取り出した。
白い息が、その上を何度も曇らせる。