こんな雨の中で、立ち止まったまま君は
だるさの残る体を何とか動かして日勤を終えるころ、外にはもう夕闇が迫っていた。
ビルや歩道のイルミネーションが灯り出し、
日中のそれとはまた別の明るさが広がり始めている。
コンビニを出て駅までの道を歩いたけれど、思い直して引き返した。
コンビニ近くのカフェに入った俺は、一息入れるためにコーヒーを頼んだ。
運ばれてきたコーヒーを啜り、窓の外を眺める。
疲れきった俺の顔が映る窓の向こうに、イルミネーションがやけに鮮やかだった。
歩道には、学生に混じって仕事帰りのスーツ姿もちらほらと現れだした。
風が強くなってきたのか、襟元を直しながらうつむき加減で歩く人たちが多い。
黒いコートの男性が通り過ぎたとき、俺はダウンジャケットのポケットからあの名刺を取り出した。
半分まで飲んだコーヒーカップの隣りにそれを置き、しばらくの間じっと眺めていた。
『彼女に何かあったら……』
飯島さんはあの時、どうしてそんなことを言ったのだろう。
まるで、小川さんに何かが起こるとでも予想していたように。
そして、
『彼女には深入りしないほうがいい』
このセリフはなんだったのか。
飯島さんは小川さんの友人であると言ったのだ。
なのに、どうしてあの日、あんな格好でふたりで部屋にいたのだろう。
もちろん、それら全ての事が気になっていたのは確かだけれど、
今はそれよりも、小川さんの過去について話を聞きたかった。
飯島さんの言葉よりも、
『私が……殺したの』
そう言って、泣き崩れた彼女のことが知りたかった。
触れないほうがいいのかもしれない。
けれど、俺はもう限界だった。