こんな雨の中で、立ち止まったまま君は

 携帯を取り出して、名刺の下に書かれている飯島さんの番号に電話をかけた。

 10コール以上鳴らしたあとで、


『もしもし?』


 飯島さんの声が聞こえた。


「もしもし……急にすみません。藤本です」


 俺の声に、電話の向こうの声が一瞬戸惑っているのが分かった。


『藤本……さん?』

「はい。あの……小川さんの」

『……ああ、藤本くん』


 小川さんの名前にようやく気づいたのか、


『登録してない番号だったからちょっと不振に思って。ごめん』


 彼の声が少しばかり軽くなった。


『どうかした?』

「いえ、あの……」


 俺が言い渋っていると、


『……まさか……美咲になにかあった?』


 飯島さんの声のトーンが下がった。


「いえ、そうじゃないんです。彼女は……少し体調が悪いみたいですけど大丈夫です」

『そっか。驚いたよ。……で、どうしたんだい?』

「あの……少しお話できませんか」

『話?』

「はい」

『……』


 何かを考えてるような沈黙が流れた。

 けれど、


『電話じゃないほうがいいんだよね?』

「はい、できれば」

『じゃあ、また後で電話するよ。今まだ手が離せないんだ』

「はい、すみません」

『急いで終わらせるから、少し待っててもらえるかな』

「はい」


 電話を切った俺は、残りのコーヒーを啜り、

 それからしばらく窓の外をぼんやりと眺めて時間を過ごした。




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