こんな雨の中で、立ち止まったまま君は

「友人が……あんなことしますか?」


 実際のところ、俺は何も見てはいない。

 飯島さんと小川さんがしていたことなど。

 けれど、そうなったことは確かだろう。


「あんなことって。何だい、それ」


 飯島さんが苦笑する。


「とぼけないでください。あなたと小川さんが何をしていたのかなんて……あの状況を見ればわかります」

「……じゃあ、何をしていたかなんて聞くことはないだろう」

「……え?」


 グラスを傾けてゆっくりと喉を動かす飯島さんの横顔からは笑みが消えていた。


「君は?」

「え?」

「美咲と寝たんだろ?」

「……」


 突然の言葉に、今度は俺のほうが困惑する番だった。

 探るような目つきの飯島さんは、尚も続ける。


「それと同じだ。俺も君も彼女を抱きたかった。だからそうした。
 そして彼女はそれを拒否しなかった」

「……な」

「そうだろう?」


 手にしたグラスの氷がカラリと音を立てる。

 まだ一滴も口にしていないグラスには水滴が張り付いていて、指の間にじっくり浸み込んでくる。


「俺は……」

「君が本当に聞きたいのはもっと別のことだろ?」

「……」

「いや……聞きたいことがありすぎて頭の中が整理できていないか」


 グラスを空にした飯島さんの顔に再び笑顔が戻った。

 けれどそれは、どこか悲しみを帯びた表情だった。




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