こんな雨の中で、立ち止まったまま君は
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「彼女のことを話すのは、俺もあまりしたくないんだよ」
灰皿に灰を落としながら飯島さんはため息にも似た息を吐き出す。
「それにあいつとは……俺も友達だったからね」
「……あいつ?」
「ああ、美咲の彼氏だったやつだ」
―――写真の、あの人だろうか。
「……和也さん、ですか」
「美咲から聞いたのか?」
「いえ……。小川さんの部屋で写真を見たんです。そこに名前が書いてありました。桜の前で二人で並んで写っている写真です」
「そっか」
「はい」
「あの写真も俺が撮ったんだよ。まあ……それが最後になってしまったけどね」
飯島さんは、カウンターに肘をのせた。
どこか遠くを見つめるような瞳で、バーテンの奥の棚を眺めている。
「和也が死んだのは一年以上前だ。あの写真を撮って数ヵ月後にね」
「……そうなんですか」
親指で頬杖をついた飯島さんの横顔を、タバコの煙が滑っていく。
「歩道橋から飛び降りて……自殺だったんだよ」
「…………」
カウンターに視線を落とした俺は、言葉を失った。
飯島さんはぽつりぽつりと話し始め、
俺はグラスを握り締めたまま、黙ってそれに耳を傾けた。