こんな雨の中で、立ち止まったまま君は
飯島さんがタバコを消すと、バーテンが灰皿を取り替えた。
何も入っていない透明な灰皿を眺めながら、俺は口を開いた。
「……そんなことがあったんですか」
「ああ。思い出すと辛いよ。……美咲の憔悴は酷いものだったからね。見ているこっちが辛かった」
目を伏せた飯島さんの顔に影がさす。
どこかで見たような表情で、それはここ最近の自分と同じものだと気づくまでに時間は掛からなかった。
「飯島さんも……小川さんのことが好きなんですね」
小声で聞くと
「……ああ」
と彼が呟いた。
「和也が死んだことは辛かった。だけどそれ以上にこんなに美咲を苦しめるようなことしたあいつを憎んだ。
墓の前で手を合わせても、何をしていても、どうして美咲をこんな目にあわせるんだってそればっかりが頭に浮かんで。
どんなに慰めても美咲はなかなか立ち直れなかったんだ。それが余計に辛くてね。
自分じゃ駄目なんだって改めて気づかされたような気分だった」
彼の言葉は正直胸に痛かった。
きっと小川さんの心の中には、未だにその彼が住んでいるんだろう。
だから彼女は、あの歩道橋に行くのだ。
―――けれど、でも……
「……自殺、だったんですよね」
「え? ああ」
「……じゃあどうして……小川さんは自分が殺した、なんて言うんですか」
「……」
俺が疑問を口にすると、飯島さんは弱弱しい笑顔を浮かべた。