こんな雨の中で、立ち止まったまま君は

 飯島さんは俺の言葉には返事をせず、しばらくの間グラスを傾けていた。

 手のひらに握ったライターをカウンターの上に落とす、ということを何度も繰り返しながら。


 やがて


「できることは無いよ」


 諦めにも似た声色だった。


「できることなんて無いんだ」

「でも……」

「見守ることぐらいしかできないんだ」

「……」

「あれからいくら和也の死について説明しても駄目だった。

君のせいじゃないんだって言っても、その時は頷くけれど、やっぱりまた直ぐに落ち込んでしまう。

……美咲の心には闇が張ったままになってしまったんだ」


 ライターの音がやむ。

 ふと飯島さんに顔を向けると、沈んだ瞳と目があった。


「君も分かるだろ?」

「え?」

「美咲を抱いたんだよな?」

「……」


 突然何を言い出すのか。

 それならあなたも同じだろう、そう口を開きかけると、


「美咲の心は、そこには無いんだ」

「……」

「誰といても、誰かに抱かれていても」

「……」

「君もそれが分かったはずだ」


 昨夜の出来事の曖昧さ、現実味の無い朝。

 それを思い出した俺は、彼の顔を見つめたまま動けなかった。





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