こんな雨の中で、立ち止まったまま君は

 二杯目を頼んだ飯島さんは静かに続けた。


「彼女の心にも生活にも意味なんて無いんだ。

“空”とか“虚”とでも言うんだろうか。

とにかく毎日が流れていくままに過ぎていくだけなんだよ、あの日から。

そこで起こっていることも彼女にとっては流れの一環であって、自分が望んだからとか、そうしたいからとかじゃないんだ。

相手に望まれればそうする。こうしようかと言われれば「うん」と応える。

自分で自分のことを上手くコントロールできないんだよ。

こんな自分を受け入れてくれる、もしかしたらそういう場所を探しているのかもしれない。

けれど決して、心は開かないんだ」


 出されたグラスに手を伸ばした飯島さんは、それを手前に引き寄せて液体に視線を落とした。

 そしてゆっくりと持ち上げた顔を俺に向けて、


「君も俺も……可哀想なやつなんだよ」


 苦々しく微笑んだ。






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