こんな雨の中で、立ち止まったまま君は
飯島さんの顔を見ながら、俺は口をつぐんだ。
“可哀想なやつ”
……そうかもしれない。
自分の好きな相手が自分を見ていない。
気持ちを伝えても、相手がそれを受入れたように見えても、
実際はそうじゃない。
これから先もたぶん、小川さんの心の中には入り込めないのかもしれない。
でも。
俺たちが可哀想なやつなのだとしたら、小川さんはどうなのだろうか。
会いたい人に会えない。
いくら願っても、元には戻れない。
求めても、叶わない。
探しても、見つからない。
一番辛いのは、彼女のなのだ。
歩道橋に佇む小川さんの姿が脳裏に浮かぶ。
飯島さんの言うとおり、もしかしたら……最悪の結果になる可能性もある。
いくら一年以上前の事とは言え、小川さんの中では思い出にもなっていない。
彼女を一人にさせておくにはまだ、時間は流れ切っていないのだ。
「飯島さん」
「ん?」
「雨の日……彼女が何をしているか知っていますか」
「え?」
突然の俺の言葉に、飯島さんの眉間に皺が寄る。
「雨の日?」
「はい」
「なに?」
どうやら彼は、時折彼女の部屋を訪ねるだけで、
小川さんが雨の日にそこに向かっているということは知らない感じだった。