こんな雨の中で、立ち止まったまま君は

「で、どうなのよ?」

「あ?」

「なんだよ、聞いてなかったのか?」

「あー、ごめん。眠くて」

「ったくよ~」


 圭吾のお喋りはまだ続いていたらしい。

 仕事の疲れとアルコールのせいもあって、

 半分寝かけていた俺は、少しばかり申し訳ない顔をしながら圭吾に笑いを返した。


「いらっしゃい!」


 オヤジさんの声が響いて振り返る。


「ども~」


 客が来たらしい。

 その声も聞きなれていた。


「お待たせー」


 奈巳(なみ)だ。


「おう、遅せーよ」

「遅いって。あんたが呼んだから来てあげたんでしょ。あたしだって用事があったんだからね」

「まあ、いいからいいから。座れ」


 圭吾に向けた唇を尖らせながら、

 よいしょ、と俺の隣りに腰をおろす。


「淳(じゅん)、久しぶり」

「うん、久しぶり」

「元気だった?」

「まあ、そこそこ」

「よかった。2週間? 3週間? 会ってないもんね」

「だな」


 奈巳の左右に分けた短めの前髪から雫が零れ落ちて、

 小さな丸い鼻の上にぽつりと落ちた。


「なんかさ、すごい雨降ってるよ、外」

「知ってる」

「ざーざーだよ?」

「さっきより強まったのかな」

「もうどしゃぶり。見て、この服。びしゃびしゃ」


 あーあ、とぼやきながらタオルハンカチで濡れたスカートの裾を拭いている。

 その姿に、一瞬だけ歩道橋の上の女の人を思い出した。


 彼女がまだあそこに居たとしたら、

 きっと奈巳のこのスカートのようにびしょ濡れになっているに違いない。


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