こんな雨の中で、立ち止まったまま君は
部屋に戻った俺は夕方過ぎまで一眠りした。
準備していた贈り物を小脇に抱え、小川さんが仕事を終える時間を見計らって外へ出る。
外は既に薄暗い。
よくよく目を凝らすと空には細かい星がいくつも浮かんでいて、今夜も雨の振る気配は伺えなかった。
駅ビルの中で小さなクリスマス用のケーキを買い、電車に乗る。
贈り物とケーキ。
いかにもクリスマスな格好をしている自分が何となく気恥ずかしくも感じたけれど、
これから彼女と会えるのだと思えばなんて事はなかった。
小川さんのアパートの下につき、彼女の部屋を見上げると同時に部屋の明かりが点された。
小川さんも調度今帰ってきたところなのだろう。
少し早すぎたかな、と思いながら二階への階段を上る。
呼び鈴を鳴らすとすぐに扉が開いた。
仕事帰りの小川さんが顔を出す。
淡いブルーのブラウスに、グレーのパンツ姿。
髪を後ろに束ねた図書館仕様の彼女の格好は、やはりいつもより大人っぽく映る。
「こんばんは」
「いらっしゃい。早いね。私、今帰ってきたところなの。すぐ準備するから座ってて」
「すみません。あ、これ、ケーキです」
「わぁ、ありがとう」
ケーキを受け取った小川さんの顔がほころぶ。
俺はその隙を見て持っていた贈り物を自分の身体の後ろに少し引いた。
彼女が部屋の中に引き返していく姿を見て、玄関先にそれを立てかけた。
隣りに、あの雨粒を散らしたような彼女の傘がある。
―――この傘は、見るからに寂しすぎる。
小川さんがさすと、もっと悲しい姿になる。
蒼い雨粒のような模様が、彼女の上に雨を降らせているようで。
「おじゃまします」
自分が持ってきた贈り物と小川さんの傘を横目に入れながら、俺は靴を脱ぎ、彼女の部屋へ入った。
まだ温まっていない部屋の中はひんやりと冷たい。
ソファに腰を下ろした俺は、特に急ぐふうでもなく、むしろゆっくりと周りを整えていく小川さんの姿をぼんやりと眺めた。
部屋着に着替えた小川さんは、ぐっと身近に感じた。
そんなどうでもいい事が、心の中を満たしていた。